『希望が死んだ夜に』 天祢涼
2022/04/27
希望が死んだ夜に
天祢涼
分類: 913
ずいぶんなタイトルだなーと思って手に取りましたが……最後にはタイトルの意味を痛感しました。
14歳の女子中学生が同じクラスの女子を殺害した事件からはじまります。
逮捕されたのは冬野ネガ。
そして殺害されたのは春日井のぞみ。
ネガは殺害を認めたものの事件の詳細については語らず、黙秘し続けます。
彼女が送検される前に事件の真相を突き止めるため、県警の刑事・真壁は生活安全課の仲田とともに捜査をすることになりました。
結果的に、クラス内ではほとんど何の接点もなさそうに見えていたふたりは、「貧困」という共通点でつながっていたことが分かります。
ふたりの生活環境はもちろん悪いんですが、それ以上にふたりの考えや精神的状況が、読んでいてとても辛かったです。
ネガの母親は体調不良を理由に仕事を休みがちで、のぞみの父親は母が病気で亡くなってからうつ病となり、こちらもまともに仕事ができない状態になっています。
それでも、ふたりの親は社会的な目を恐れて生活保護の申請にまでは踏み切れません。
まあ、ネガの母親はネガが学校に隠れてバイトをして得た収入を喜んで使ってしまう人なので、真剣に考えたことはないんじゃないかと思いますが……
「生活保護」や「貧困」に対するスティグマ、社会の無理解。
このへんも貧困問題では相当重要な要素だと思います。
あと衝撃だったのが、ふたりの担任の先生の言葉。
ネガの生活環境がそれなりに悪いと察してはいると思うんですが、ネガに対して先生は、「アフリカの子どもと比べたら恵まれている」と言ってしまいます。
そしてネガも素直で純粋だからそれをそのまま真に受ける。
貧困というのは社会的な問題で、社会の仕組みに根本的な原因があって、親が悪いとか大人が悪いとかいう問題ではないと少しは分かっているつもりですが、こういうのを見ると、なんだかなあ、と思ってしまいます。
これでは「大人」が敵になるのは当たり前なんじゃないでしょうか。
そして最後には事件の真相が明かされます。
のぞみはなぜ死んだのか。
仲間として、深くつながっていたのぞみを、ネガはどうして殺したのか。
あの日何があって、のぞみは何を思ったのか。
「希望が死んだ夜に」、ふたりは何を選んだのか。
社会派小説でもあるし、ミステリーとしても読める一冊でした。