あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『Nのために』 湊かなえ

2021/06/27

Nのために
湊かなえ
分類: 913


またしても湊かなえさん。
読み終わってから思うのは、Nっていったいなんだったのかということでした。


高級マンションで起きた夫婦の殺人事件。
そこで殺害された会社員の野口とその奥さんの奈央子、そしてその場にいた大学生の希美と西崎、ふたりの友達で野口の部下でもある安藤望、高級レストランの出張サービスに来ていた成瀬。
この6人が、この事件に至る過程をそれぞれの視点から語るお話です。

全員のイニシャルにNが入ってるんですよね。「のぞみ」が二人いて書いてると違和感があるので安藤は安藤でいきます。


簡単に人間関係を整理すると、希美・西崎・安藤は同じアパートに住んでいました。ある日の床上浸水がきっかけで3人は親しくなり、その後希美と安藤はふたりで沖縄に旅行に行くことになります。
実はこの旅行は色々と目的があるものだったんですが…それは読んでみてください。
その旅行先で出会ったのが野口夫妻。あるきっかけで仲良くなって、旅行が終わってからも同じ東京に住んでいることから付き合いが生まれました。

西崎は作家志望で大学にはろくにいかず執筆をしていましたが、ある日希美を訪ねてきた奈央子と知り合いになり、恋愛感情を抱く様になります。
成瀬は希美と同じ故郷の出身で希美とは高校の頃からの知り合い。野口夫妻が好きな高級レストランでバイトをしていました。

事件が起きた現在では、安藤だけ卒業しアパートを出て、野口と同じ会社で働いています。


実は…だいぶ長いこと安藤の方は女子だと思ってたんですよね…希美の親友だし、一人称も「私」だし……だから途中であれ?ってなってしまいました。安藤、西崎、成瀬は男です。

希美、西崎、安藤、成瀬それぞれから話が語られるんですが、最初は事件後、警察の事情聴取みたいな状況。そのあと、それぞれの独白が始まります。
最初言ってたことと違うじゃん、とか、そんな過去があったんだ、とか色々出てきて、だんだん逆にこの事件の全体が見えて来なくなります。

希美は故郷での学生時代に父親に母親と弟とともに家を追い出された経験があり、そのときに浪費家の母親によってだいぶ壮絶な経験をしています。
その時に心の助けとなったのが成瀬。
かといってじゃあNのためには成瀬のためになのかって言われたら…そんな簡単じゃなさそうなんですよね。それぞれにNがいたってことではあると思います。

野口夫妻も含めそれぞれに思惑や勘違いや理想があって、それが変な気持ち悪さもありながら絡んで、結果的にあの事件が起きることになります。
最初の方は、その事件の結果自体にそこまで大きな意味や影響があるようには思えなかったんですが、事件の経過や経緯を知るうちに思ったよりずっと複雑な関係だったんだと驚きました。
やっぱり湊かなえさんのこの奇妙な感じ、好きだな…。でもちゃんと人間的な優しさや感情があるところが面白いと思います。


この話をちゃんと理解するのは難しそうなので、時間をおいてもう一回読んでみたいです。