あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき

2021/12/25



お気に入りの本のひとつ。新装版が出ていたので買ってしまいました。
どっかでみたイラストだなーって思ったら、どうやらFFのイラストの人みたいです。

アニメ映画にもなったし、知っている人は多いんじゃないかな?と思うんですが…

小学5年生の亘(わたる)が、突然両親が離婚するというトラブルに巻き込まれて、そんな自分の運命を変えるために「幻界(ヴィジョン)」という異世界へ冒険をしにいくという話です。


ほんとに一言で表すならこれだけなんですが…だいぶシンプルですね。
とりあえず、王道のファンタジーであることは確かだと思います。



亘はゲーム好きな、本当に平凡な小学生だったんですが、ある日突然、父親が家を出て行ってしまいます。
父親は母と結婚する前から好きだった女性と再会して、その女性の方を選びます。


亘の母はそれに耐えられず、父親を連れ戻そうと相手の女性の会社に電話をしたり、話をしに行ったりと行動しますが、全く効果はありません。
そんな家でのストレスが続いて、亘も追い詰められていきます。

ちなみに、この最初の「冒険」にいく前の部分は、上中下巻のうち上巻のほとんどを占めています。
ファンタジーだからほとんどが冒険の話かと思いきや、このしっかり書かれている部分がすごい面白い。
ただちょっと子ども向けではないかなーって感じですが。


ある日とうとう、相手の女性と母が家で掴み合いの喧嘩になり、その後、母親はガスで心中を図ります。
そこにやってきたのが、転校生の美鶴(みつる)。
それまでにもその転校生と亘は色々あったのですが…その時に助けられた借りを返すと言って、美鶴は「運命を変える方法」を教えてくれます。

それは、異世界である「幻界」を旅して、「運命の塔」に辿り着くこと。

改めて見ると、ほんとにゲームの設定によくありそうな話だなあ。
美鶴もまさに自分の運命を変えようと冒険をしているところでした。
亘はそれを聞いて、自分の運命を変えるために幻界に旅立ちます。

ここまででじゅうぶんひとつの本の内容になりそうですね。
幻界は、北と南の大陸に分かれた異世界
猫やワニのような動物が喋って歩く、異世界の典型みたいなところです。ちなみに人間の見た目をしているのは「アンカ族」。

そこで5つの宝玉を集めて、それを持って「運命の塔」に行き、運命の女神に会って願いを叶えてもらうことが亘の試練。

そしてもちろん美鶴と一緒に行動することもできない。


旅の中で、亘はキ・キーマとミーナというともに冒険できる仲間と出会います。
そしていろいろなことを経験しながらも宝玉を集めていくのですが…

実はちょうど、亘が訪れた時期は幻界にとって大きな節目となる時期でした。

それは、「ヒト柱」が選ばれること。
幻界と現世の維持のためにはそれぞれの世界からひとりずつ、1000年の間世界を見守るという使命を負う人柱が必要なのです。

幻界の住人からひとり、そして幻界を訪れている「旅人」の中からひとり。
つまり、亘か美鶴か、どちらかはヒト柱とならなければいけないということです。

ヒト柱となってしまえば現世には戻れず、もちろん運命を変えることもできません。

幻界の人たちも混乱する中、亘は自分よりずっと先をいっている美鶴のことを考えて悩みます。
そんな中、美鶴は運命の塔にたどり着くために、幻界中を混乱に陥れる事件を起こすのですが…



クライマックスのほうは本当に、引き込まれてずっと本を手放せません。

ちなみに、最後はどちらかが必ずヒト柱に選ばれます。


コレを読んで毎回思うのが、亘の成長がすごくて…最初は、

不当にねじ曲げられ変化させられている運命を、元どおりの正しい形に戻すんだ

と言って旅立って行ったのが、最後には、

変えるべきなのは僕の運命じゃなくて、——僕自身なんだ。


って言うんですよ…ほんとにすごいなあ。


設定とかはかなりシンプルでありきたりな感じではありますが、その上に乗ってるストーリーはとても濃くて面白いです。
イデオロギーや種族の対立とか、憎しみや恨みの話とか。
設定がシンプルだからこそなのかもしれませんね。

個人的にはティアズヘヴンと嘆きの沼の話がすごい刺さりました…
亘は幻界で、父親と、その不倫相手の女性とそっくりな顔をした2人に出会うんです。
しかもそのふたりも同じようなことをしていて、女性のほうはお腹に赤ちゃんもいた。
そこで、亘はふたりに憎しみをぶつけてしまいます。

詳しくはネタバレになるので言えないですが、怖いし悲しい。
誰かが決定的に間違っているわけじゃないけど、でもどちらを選んでも傷つく人や悲しむ人が出る。
自分だったらこの時点で旅をやめてしまいそうです。


亘も、美鶴も、幻界のみんなも現世のみんなも、それぞれ色んな葛藤に悩まされながらも頑張ろうと前を向くところが、とてもいいんです。

そして、冒険ならではですが、行く先々で色んなヒトに出会います。
本当にいろんな人がいて、面白かったり優しかったり、嫌なやつだったり。本当にいろんなヒトがいます。
そういうとこもこの本がいいなあと思える理由のひとつな気がします。


実はまだ映画を見たことがないんですよね…観てみたいとは思いつつ、本以上に楽しめるとは思えなくて。
誰かと一緒に観ようかな……
まだどっちも知らないって方は好きな方から試してみてください。
でもどちらにしろ本は読んで欲しい!!笑