あおい本棚

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『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき (ネタバレあり)

2021/12/25

ブレイブ・ストーリー
宮部みゆき
分類: 913


前の記事で話の流れを書いてたらうっかり長くなっちゃったので、感想メインの記事にしようかと…

※この記事は「ブレイブ・ストーリー」のネタバレを含みます!
あらすじとかだけ知りたいという方はひとつ前の記事をどうぞ↓

blue-mokusei.hatenablog.com



亘と現世


まず思ったのが…亘のお父さん、なかなか面倒な人だな!?ってことですね。
家を出て行ったあと一度、亘と会話をする機会がありました。
そしてそこで、「お母さんと結婚したのは間違いだった」って言ってしまうんです。

え、間違いなの?間違いでいいの?って思ってしまいました。
よく、間違ったっていいって言うし、間違いがただ全部無駄だというわけでもないですが…。
これまで10年以上あったわけで、それを全部「間違い」って言葉で終わらせちゃうのは、なんか悲しいし冷たいし、自分にとっても優しくないんじゃないかな……?
もとから理詰めな人だったから、らしいと言えばらしいんですが。

でも、亘の目の前でそれを言うのはどうかと思います。しかもそれで亘を傷つけるってことに無自覚なのが…

ティアズヘヴンのとこでも思ったけど、この手の話って難しいですよね。
自分の望むようにやることは悪いことじゃない。でも、それによって傷つく人が出てしまう時は、どうしたらいいんでしょうか。

しょうがないって耐えるのか、相手に望みを捨てさせるか。
いつもちょうどいい落とし所があればいいけど、そういうわけにもいかないですよね。


でも、だからこそ、最後に現世に帰ってきた亘が、お母さんに「僕らはもう大丈夫だね」っていうところが本当にすごいと思ったし、なんか嬉しかったです。

お父さんが帰って来なくても大丈夫。そうお母さんに向かって言えることがもう、すごい。

失ったものを嘆いて自分を苦しめるよりも、今の自分たちを大事にすることができるよ。

この一文がとても好きです。亘の優しさと強さがとても感じられる。


ミツル


そしてこの話の中で忘れてはいけないのが、美鶴。
亘より先に幻界を旅していて、亘と同じように自分の運命を変えたがっていた旅人。

美鶴は母親の不倫が原因で父親が一家心中を起こし、妹と両親を亡くして自分だけ生き残るという過去を持っています。
そしてその運命を変えて、妹だけでも取り戻したいと願っていた。

それが本当に強い願いだったからこそ、手段を選ばなかったミツルは、幻界では誰かを傷つけることも騙すこともためらわず、最後には幻界を滅ぼすことになると分かっていながら、宝玉のため封印を解いてしまいます。

そしてミツルはずっとひとりだった。

だから、最後の最後、運命の塔にたどり着く寸前に、自分がこれまで気にかけてこなかった自分自身の憎しみに負けてしまった。

ただ目的のためだけに突っ走ってきたから、自分の心が分からなくなっていたんですね。


どうしてだよ。ここまで来て……なんでこんなことになるんだ?

ミツルらしい台詞。ほんとにどうしてだよって、自分も思いました。
やり方はどうあれ、間違いなくミツルは頑張ってたと思います。

最後のワタルの祈りに応えるところは、泣きます。ほんとに。


そういえば、ミツルの一人称!変わってる!
ということに初めて気づきました。もう何回も読んでいるんですが。

現世にいたころは「僕」、幻界で初めて出会った時は「オレ」、そして次に会った時には「俺」。
これも、ミツルが自分を失いつつあることを暗示してたのかもしれません。

ミツルはヒト柱として半身に選ばれたわけだから、あのあと千年の間幻界と現世を見守り続けるわけですよね。
妹の生まれ変わりとかを見届けられたらいいな…
そのあとミツル自身も生まれ変わって、その時はもっと笑顔になれる幸せな人生だったらいいなと思います。


運命の女神


ラスボスのわりには一瞬で終わった運命の女神とのシーン。
いやーほんとに、神様ってこういうヒトのこと言うんだなって思いました。


ワタルが、願い事としてまさに今魔界に侵攻されている幻界を救ってくださいと言った時、女神様はちょっと不思議そうにして、
幻界を救ってもあなたは救われない。今は情が移ってるだけであとからきっと後悔するだろう、っていうんですね。
しかも、「今ここで魔界の侵攻を打ち破っても幻界に未来があるとは思えない」とまで言います。

なかなか冷たいな…とか私は思ってしまいましたが。
願いを叶える力を持つ神様は、そんなもんなのかなと納得もしました。

淡々としていて、何にも特別な思い入れは無く、案外単純な考え方をする。
だからこそ、全てを受け入れる器があるんだと思います。

まあもしかしたら、試していただけなのかもしれないけど…どちらにしろ結構淡白な印象を受けました。
たしかに、神様がいちいち心を揺らしてたらキリがないですもんね。肩入れするわけにもいかないし。
冷たいくらいが神様自身にも他のヒトにもちょうどいいのかもしれません。


ワタルとミツル


ひとつ不思議に思ったのがワタルとミツルの関係。

思えば初めて出会った時から、亘は美鶴を見て「自分と似てる」って思っていました。
その時は背格好とかがって話だったと思うんですけど。


女神様との話の時、ワタルは、自分がこれまで出会った苦しんでいる人たちを救いたいと願って旅をしていたのだ、と女神様に言われます。
その中にミツルもいるんですかという問いに女神様はうなずいて、「彼もあなたの内に存在している」って言うんですね。

ここまではまあいいんですが、このあと、女神様はワタルに聞こえないくらいの声で、「最初から」と言います。

これが、旅を始めた時からなのか、美鶴と出会った時からなのか、それとももっと前からなのか…?

何か亘と美鶴にはつながりがあったのかなと思ってしまいました。
私も読んでいる途中で何度か、この2人、なんか似てるなと思うことが多かったので。

まあ、いつかまた読み返した時に分かるといいかな…何もないかもしれないし。


不思議といえばもうひとつ。
3つ目の宝玉を手に入れた時って現世戻った?ということです。
描写がないだけで戻ったのかな……戻ったとしたらどこに戻ったんだろう。

こんなことを考えるのもそれはそれで楽しいです。




お気に入りの本なので感想書くとめちゃくちゃ長くなる…笑
もしここまで読んでくれている人がいたら、本当にありがとうございます。

ひとつ前の記事でも書きましたが、キャラクターがいい。
会うヒト会うヒトそれぞれに特徴があって、現世とのつながりも感じられたりして、楽しいです。

こんなにがっつりファンタジーなのにしっかり小説になってて、読み応えもある。
ミステリ系も多いですが、宮部みゆきさんってすごいなと感じます。ミステリを書く人だからこその要素もある気がするし。

現世に帰ってきてからのシーンは、短いけどなんだか全部すごい幸せでキラキラしてて、泣きそうになります。

他にも書きたいことはたくさんありますがそれはまた別の機会にしようかと思います。

ではでは、
ヴェスナ・エスタ・ホリシア。
再びあいまみえる時まで。