あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『落日』 湊かなえ

2021/12/26


落日
湊かなえ
分類: 913


読みたいと思ってたけど見つけられなくて、ようやく見つけた本。

登場人物がなかなか多くて、人間関係も血縁関係も複雑で、相関図が欲しいなとめちゃくちゃ思いました。

中心となるのは、売れない脚本家の甲斐真尋と、世界的映画賞を取った映画監督、長谷部香。
笹塚町という田舎町で起こった放火殺人の真相を追う話です。




真尋はそれなりに名のある脚本家、大畠先生のもとで助手をしていますが、作品にダメ出しをされてばかりでこれといった活躍はしていませんでした。

そんなところにある日、有名な映画賞をとった映画監督、長谷部香から脚本依頼が来ます。
その理由は、真尋が笹塚町の出身であり、長谷部監督は笹塚町の事件をテーマにした映画を撮りたかったから。

初め監督は真尋のことを、監督と同い年である真尋の姉・千穂と勘違いして連絡を取っていました。
実は監督も少しの期間だけ笹塚町に住んでいて、真尋の姉と同じ幼稚園に通っていたんです。


そして監督は笹塚町の一家殺害事件について真尋に情報提供を求めます。
それは15年前、立石家の長男・力輝斗(りきと)が、妹を包丁で刺し、家に火をつけて両親も殺害したという事件でした。

長谷部監督はこの時に亡くなった妹の沙良と小さい頃関わっていて、どうしてそんな事件が起きたのかを知りたいと言います。

しかし真尋は初め、この話を断ります。
知ることが救いになるとは限らない。この事件を調べても意味がない。
真尋はそう思っていました。


監督はそれを聞いて真尋のことは諦め、脚本の話は無くなるのですが……


実家に帰ったついでに事件のことを少し調べ始めた真尋は、だんだんと興味を持ち、結局は大畠先生と対決する形で脚本を引き受けることになるのです。

そして調べた先で、真尋の過去、監督の過去、そして沙良や力輝斗、さらに千穂までもがつながっていることが明らかになっていきます。



長谷部監督は、知ることは救いになると信じて作品を作る人でした。というか、そのために撮る。

監督が映画を撮るようになった経緯を考えると、この人は、自分の苦しみとか過去の経験とかを、ちゃんと昇華できた人なんだなと思います。


対して真尋は、知ることが救いになるとは限らない、むしろその逆もあり得る、と言う意見です。
真尋にも、知りたいけど知りたくない、消化できていない過去があり、それがずっと脚本を作ることに関してもネックになっていました。


監督と真尋は事件の関係者やその友人たちから様々な話を聞くんですが、それぞれにストーリーがあって面白いです。


沙良は本当はどんな人だったのか。監督が知っていると言った「沙良」は本当に立石沙良だったのか。
力輝斗はなぜ妹を殺したのか。

謎がいっぱいあって、終盤でそれが一気に明らかになっていくのがすごい。
それに加えて思いもよらぬことまで明らかになります。


2人にとっての救いがあって良かった。
監督の父親のマグカップを喫茶店で手渡すシーンが良かったです。

ただ、思ったより最後監督の存在薄くて、ここまで結構頑張ってたんだけどな…とか思ってしまいました。

2人ともメインな感じだったけど、最後の方だけ読んだら間違いなく主人公は真尋ですね。
まあ基本的に真尋視点で事件の解明が進んでいたので。



私は湊かなえさんって言うと「告白」とか「贖罪」とか、結構えぐい感じのを初めに読んでいたので、その印象が強かったんですが、こういう作り込まれた感じのミステリーも最近は読むようになって、同じ人でもいろんな楽しみ方があるなあと驚きます。


とりあえず相関図があると便利ですね。
正隆くんと信吾とか、どっちが元カレだっけ…とかよくわからなくなってました笑