あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『チルドレン』 伊坂幸太郎

2022/01/01

チルドレン
伊坂幸太郎
分類: 913

以前読んだ、「サブマリン」の前の話。
家裁調査官としての陣内と、その昔、学生としての陣内。二つの時間軸の話が交互に展開します。

家裁調査官の陣内は相変わらずの陣内で、いつものようにひねくれてました。
とはいえ、普通はチルドレンのほうから読むんだろうから、相変わらずというのは変かもしれませんが。
私は「サブマリン」が初対面だったので…


そして驚いたことに、学生時代の陣内は家裁調査官の陣内よりずっととんがってました。
自由奔放なのは変わってないけど、やっぱり年取って落ち着いたんですね…


学生時代の話の中では、「サブマリン」にも出てきた盲目の青年、永瀬とその恋人の優子、そしてその頃陣内とよく付き合っていた友人、鴨居が登場します。

ある日陣内と鴨居が訪れた銀行でまさかの銀行強盗が起き、そこで二人は永瀬と出会います。
その銀行強盗もまた突拍子もなくて、オチが面白い。
こんな銀行強盗ならちょっと巻き込まれてみたいかな、とも思いました。


「サブマリン」では、過去に陣内と永瀬ともうひとり誰か昔の友人がいたみたいで、その友人はおそらくこれを読む限り鴨居だと思うんですが……その友人は亡くなってる雰囲気だったような?
ということは鴨居はもういないのかな?

伊坂幸太郎さんのことなので、別の作品でまた語られているのかもしれませんね。


家裁調査官としての陣内と、学生?時代の陣内の話。

交互になってるけど、過去が未来に繋がってるのか未来が過去につながってるのか、ふたつの間に特別つながりがあるようには思えなくて…ちょっと構成が謎でした。

時間軸が二つあるからには、何か意味があるんじゃないかと思うんですが……
私の読解力ではまだ足りなさそうです笑


というわけで、この話に関連した他の作品を知っている方、良ければ教えてください。

『作家と一日』 吉田修一

2021/12/29


作家と一日
吉田修一
分類: 914


ANAの機内誌の連載が本になったものだそうです。
コロナで思うように旅行も行けない今だからこそ読むと楽しいんじゃないかなと思います。


というか、タイトルだけ見た時はもっと、「作家のエッセイ」と言う感じかと思ってました。

まあ確かに、文字通り作家のエッセイではあるんですが、作家ってこと自体はたいした意味を持っていないなっていう感じ。
それはとにかくとして…めちゃくちゃ面白かったです。


連載をまとめたものなのでひとつひとつの話は短くて、長くても5ページくらい。
特に印象に残ったものを紹介しますね。

月夜のダイニング

筆者がタイで経験した夢の中にいるような旅行の話。

書き方がうまくて、本当に夢の中みたいなんです。
レストランでボーイがふっと現れてふっと消えるところとか…

そんな夢だけでもみてみたくなる、とても素敵な話でした。


いい風を知ってますねぇ


気持ちの良い場所を探すプロの話。
筆者の友達とか、猫とか。

たしかにそういう人っているなあ、と納得しました。
なんかいっつも気持ち良さそうにしてる人はたいてい、自分の居場所をすぐに見つけるんですよね。

そういう人はきっと「いい風」を読めるんでしょうね…いいなあ。私も探してみます。


豆乳、揚げパン、牛肉麺


とりあえず…この作者の方はほんとに台湾が大好きなんだと思います。

これまでのふわっとしたエッセイじゃなくて、突然めちゃくちゃ具体的な話になります。
次から次へと出てくる店の名前、町の名前、食べ物…もうただの観光ガイド。
そんなところも面白くてこの話大好きです。

この人に台湾の紀行本とか書いて欲しいなあ…絶対それ持って台湾行くのに。

そして読んでるととにかくお腹が空いてきます…タイトルからも分かる通り食べ物の話ばっかりなので。


三朝の湯で願う


体にガタが来始めた友人と、湯治にいく話。
三朝は「みささ」と読み、鳥取にある温泉街なんだそうです。

正直に言うと具体的な話の内容は忘れてしまったんですが…
はっきりした目的も予定もなくぼんやりと温泉に浸かって過ごす時間が、なんだかすごくいいなあと思ったことは覚えています。




これ読んでると、旅行に行きたいな、とすごく思います。
それぞれの話がキラキラしてて、非日常って感じがしてすごい楽しい。
飛行機の中で青い空を見ながら読んでいる気分になれます。ほんとに。


でも人によっては余計に旅行行きたくなって悲しくなるかな…?
いや、でもエッセイ自体が面白いのでそれだけでじゅうぶん楽しいと思います。

それに、遠出するってだけじゃなくて、ちょっといつも行かないような道とか街とかに行ってみるだけでも楽しいかも、とも思わせてくれます。
今回は図書館で借りたけど、これは買ってちょくちょく読み返したい……

『本のエンドロール』 安藤祐介

2021/12/28

本のエンドロール
安藤祐介
分類: 913


書籍の売り上げが低下する時代の中でも奮闘する印刷会社の話。


豊澄印刷に中途入社した営業第二部の浦本学(うらもとまなぶ)。

この本には、彼が関わった中のうち5つの本にまつわるエピソードが収められています。



浦本は、もともとは大手印刷会社にいたのが、そこでは本の印刷をしておらず、書籍印刷をするために豊澄印刷に転職しました。

「印刷会社はメーカーだ」という考えを持ち、意欲的に仕事に取り組む浦本。

しかし、転職して数年経ってもまだまだミスは多く、スケジュールの調整や営業に追われる日々です。

印刷会社はメーカーという信念を持っているものの、積極的になりすぎると上手く行かないことも多々あり、悩みながらも、自分にとっての仕事の方向を探しながら毎日走り回っています。

出版直前になって誤植が見つかったり、担当の編集が音信不通になったり、超低コストで本を作らなきゃいけなかったり。

トラブルばかりですが、その中でも彼は一緒に働く仲間と共に、大切な絆や気づきを得ていきます。



大手会社の機械化によって熾烈化する価格競争や、電子書籍の普及など、出版のシビアな現実を色々と実感しました。

私は基本的に紙の本で読みますが、電子には電子のいいところがあるのもわかるので……
「求める人がいるならそれでいい」というのは、確かにそうだなと思います。


そしてもちろん、印刷や出版という世界の魅力的な面もたくさん知ることができました。

紙の材質とか仕上げとか…よくわからない専門用語なのになんだかワクワクしてしまいます。
専門用語ですらすら会話してるとこみると、かっこいーってなりますよね。


編集を通った後も、ちゃんと「本」にするためのオペレーターなどの存在とか、工場で大量の紙が積み上がっているところを想像したりとか…。
こうやって本って出来てるんだなと思うと楽しいですね。


あともうひとつ、他の登場人物たちもそれぞれに個性があって面白いんです。

個人的にはDTPオペレーターの福原笑美と、工場で特色をつくる職人のジロさんが好きです。

ふたりとも自分の世界があってブレない。
こんなふうに働きたいなって思わせてくれます。

他にも同じ営業第二部のベテラン、仲井戸や、同い年で工場の責任者の一人である野末、関連会社の編集者、奥平翔、通称「オウヘイ」などなど。

野末は家庭でちょっとした問題があって、そのへんが妙にリアルで途中、読むのが辛かったです。


とにかく、印刷に限った話ではないですがやっぱり奥が深い。印刷の工場に行ってみたいなとすごい思いました。

ちなみに…特色というのは、CMYKインクの標準の組み合わせでは出せない色のこと。
職人さんが直接インクを混ぜて色を作り出します。

こういう技術も最近では機械化されてきているそうです…そうなるともう「特色」ではないけど。


本や印刷の話だけでなく、仕事についても色々と考えさせられる一冊でした。

『落日』 湊かなえ

2021/12/26


落日
湊かなえ
分類: 913


読みたいと思ってたけど見つけられなくて、ようやく見つけた本。

登場人物がなかなか多くて、人間関係も血縁関係も複雑で、相関図が欲しいなとめちゃくちゃ思いました。

中心となるのは、売れない脚本家の甲斐真尋と、世界的映画賞を取った映画監督、長谷部香。
笹塚町という田舎町で起こった放火殺人の真相を追う話です。




真尋はそれなりに名のある脚本家、大畠先生のもとで助手をしていますが、作品にダメ出しをされてばかりでこれといった活躍はしていませんでした。

そんなところにある日、有名な映画賞をとった映画監督、長谷部香から脚本依頼が来ます。
その理由は、真尋が笹塚町の出身であり、長谷部監督は笹塚町の事件をテーマにした映画を撮りたかったから。

初め監督は真尋のことを、監督と同い年である真尋の姉・千穂と勘違いして連絡を取っていました。
実は監督も少しの期間だけ笹塚町に住んでいて、真尋の姉と同じ幼稚園に通っていたんです。


そして監督は笹塚町の一家殺害事件について真尋に情報提供を求めます。
それは15年前、立石家の長男・力輝斗(りきと)が、妹を包丁で刺し、家に火をつけて両親も殺害したという事件でした。

長谷部監督はこの時に亡くなった妹の沙良と小さい頃関わっていて、どうしてそんな事件が起きたのかを知りたいと言います。

しかし真尋は初め、この話を断ります。
知ることが救いになるとは限らない。この事件を調べても意味がない。
真尋はそう思っていました。


監督はそれを聞いて真尋のことは諦め、脚本の話は無くなるのですが……


実家に帰ったついでに事件のことを少し調べ始めた真尋は、だんだんと興味を持ち、結局は大畠先生と対決する形で脚本を引き受けることになるのです。

そして調べた先で、真尋の過去、監督の過去、そして沙良や力輝斗、さらに千穂までもがつながっていることが明らかになっていきます。



長谷部監督は、知ることは救いになると信じて作品を作る人でした。というか、そのために撮る。

監督が映画を撮るようになった経緯を考えると、この人は、自分の苦しみとか過去の経験とかを、ちゃんと昇華できた人なんだなと思います。


対して真尋は、知ることが救いになるとは限らない、むしろその逆もあり得る、と言う意見です。
真尋にも、知りたいけど知りたくない、消化できていない過去があり、それがずっと脚本を作ることに関してもネックになっていました。


監督と真尋は事件の関係者やその友人たちから様々な話を聞くんですが、それぞれにストーリーがあって面白いです。


沙良は本当はどんな人だったのか。監督が知っていると言った「沙良」は本当に立石沙良だったのか。
力輝斗はなぜ妹を殺したのか。

謎がいっぱいあって、終盤でそれが一気に明らかになっていくのがすごい。
それに加えて思いもよらぬことまで明らかになります。


2人にとっての救いがあって良かった。
監督の父親のマグカップを喫茶店で手渡すシーンが良かったです。

ただ、思ったより最後監督の存在薄くて、ここまで結構頑張ってたんだけどな…とか思ってしまいました。

2人ともメインな感じだったけど、最後の方だけ読んだら間違いなく主人公は真尋ですね。
まあ基本的に真尋視点で事件の解明が進んでいたので。



私は湊かなえさんって言うと「告白」とか「贖罪」とか、結構えぐい感じのを初めに読んでいたので、その印象が強かったんですが、こういう作り込まれた感じのミステリーも最近は読むようになって、同じ人でもいろんな楽しみ方があるなあと驚きます。


とりあえず相関図があると便利ですね。
正隆くんと信吾とか、どっちが元カレだっけ…とかよくわからなくなってました笑

『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき (ネタバレあり)

2021/12/25

ブレイブ・ストーリー
宮部みゆき
分類: 913


前の記事で話の流れを書いてたらうっかり長くなっちゃったので、感想メインの記事にしようかと…

※この記事は「ブレイブ・ストーリー」のネタバレを含みます!
あらすじとかだけ知りたいという方はひとつ前の記事をどうぞ↓

blue-mokusei.hatenablog.com



亘と現世


まず思ったのが…亘のお父さん、なかなか面倒な人だな!?ってことですね。
家を出て行ったあと一度、亘と会話をする機会がありました。
そしてそこで、「お母さんと結婚したのは間違いだった」って言ってしまうんです。

続きを読む

『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき

2021/12/25



お気に入りの本のひとつ。新装版が出ていたので買ってしまいました。
どっかでみたイラストだなーって思ったら、どうやらFFのイラストの人みたいです。

アニメ映画にもなったし、知っている人は多いんじゃないかな?と思うんですが…

小学5年生の亘(わたる)が、突然両親が離婚するというトラブルに巻き込まれて、そんな自分の運命を変えるために「幻界(ヴィジョン)」という異世界へ冒険をしにいくという話です。


ほんとに一言で表すならこれだけなんですが…だいぶシンプルですね。
とりあえず、王道のファンタジーであることは確かだと思います。



亘はゲーム好きな、本当に平凡な小学生だったんですが、ある日突然、父親が家を出て行ってしまいます。
父親は母と結婚する前から好きだった女性と再会して、その女性の方を選びます。


亘の母はそれに耐えられず、父親を連れ戻そうと相手の女性の会社に電話をしたり、話をしに行ったりと行動しますが、全く効果はありません。
そんな家でのストレスが続いて、亘も追い詰められていきます。

ちなみに、この最初の「冒険」にいく前の部分は、上中下巻のうち上巻のほとんどを占めています。
ファンタジーだからほとんどが冒険の話かと思いきや、このしっかり書かれている部分がすごい面白い。
ただちょっと子ども向けではないかなーって感じですが。


ある日とうとう、相手の女性と母が家で掴み合いの喧嘩になり、その後、母親はガスで心中を図ります。
そこにやってきたのが、転校生の美鶴(みつる)。
それまでにもその転校生と亘は色々あったのですが…その時に助けられた借りを返すと言って、美鶴は「運命を変える方法」を教えてくれます。

それは、異世界である「幻界」を旅して、「運命の塔」に辿り着くこと。

改めて見ると、ほんとにゲームの設定によくありそうな話だなあ。
美鶴もまさに自分の運命を変えようと冒険をしているところでした。
亘はそれを聞いて、自分の運命を変えるために幻界に旅立ちます。

ここまででじゅうぶんひとつの本の内容になりそうですね。
幻界は、北と南の大陸に分かれた異世界
猫やワニのような動物が喋って歩く、異世界の典型みたいなところです。ちなみに人間の見た目をしているのは「アンカ族」。

そこで5つの宝玉を集めて、それを持って「運命の塔」に行き、運命の女神に会って願いを叶えてもらうことが亘の試練。

そしてもちろん美鶴と一緒に行動することもできない。


旅の中で、亘はキ・キーマとミーナというともに冒険できる仲間と出会います。
そしていろいろなことを経験しながらも宝玉を集めていくのですが…

実はちょうど、亘が訪れた時期は幻界にとって大きな節目となる時期でした。

それは、「ヒト柱」が選ばれること。
幻界と現世の維持のためにはそれぞれの世界からひとりずつ、1000年の間世界を見守るという使命を負う人柱が必要なのです。

幻界の住人からひとり、そして幻界を訪れている「旅人」の中からひとり。
つまり、亘か美鶴か、どちらかはヒト柱とならなければいけないということです。

ヒト柱となってしまえば現世には戻れず、もちろん運命を変えることもできません。

幻界の人たちも混乱する中、亘は自分よりずっと先をいっている美鶴のことを考えて悩みます。
そんな中、美鶴は運命の塔にたどり着くために、幻界中を混乱に陥れる事件を起こすのですが…



クライマックスのほうは本当に、引き込まれてずっと本を手放せません。

ちなみに、最後はどちらかが必ずヒト柱に選ばれます。


コレを読んで毎回思うのが、亘の成長がすごくて…最初は、

不当にねじ曲げられ変化させられている運命を、元どおりの正しい形に戻すんだ

と言って旅立って行ったのが、最後には、

変えるべきなのは僕の運命じゃなくて、——僕自身なんだ。


って言うんですよ…ほんとにすごいなあ。


設定とかはかなりシンプルでありきたりな感じではありますが、その上に乗ってるストーリーはとても濃くて面白いです。
イデオロギーや種族の対立とか、憎しみや恨みの話とか。
設定がシンプルだからこそなのかもしれませんね。

個人的にはティアズヘヴンと嘆きの沼の話がすごい刺さりました…
亘は幻界で、父親と、その不倫相手の女性とそっくりな顔をした2人に出会うんです。
しかもそのふたりも同じようなことをしていて、女性のほうはお腹に赤ちゃんもいた。
そこで、亘はふたりに憎しみをぶつけてしまいます。

詳しくはネタバレになるので言えないですが、怖いし悲しい。
誰かが決定的に間違っているわけじゃないけど、でもどちらを選んでも傷つく人や悲しむ人が出る。
自分だったらこの時点で旅をやめてしまいそうです。


亘も、美鶴も、幻界のみんなも現世のみんなも、それぞれ色んな葛藤に悩まされながらも頑張ろうと前を向くところが、とてもいいんです。

そして、冒険ならではですが、行く先々で色んなヒトに出会います。
本当にいろんな人がいて、面白かったり優しかったり、嫌なやつだったり。本当にいろんなヒトがいます。
そういうとこもこの本がいいなあと思える理由のひとつな気がします。


実はまだ映画を見たことがないんですよね…観てみたいとは思いつつ、本以上に楽しめるとは思えなくて。
誰かと一緒に観ようかな……
まだどっちも知らないって方は好きな方から試してみてください。
でもどちらにしろ本は読んで欲しい!!笑

『狐笛のかなた』 上橋菜穂子

2021/12/17

狐笛のかなた
上橋菜穂子
分類: 913


映画「鹿の王」、とうとう公開日決まりました!
全然お知らせないから、まさかお蔵入り…?とか心配してたのでほんとに良かったです。


www.youtube.com


というわけで公開日決定記念ということで、上橋菜穂子さんの「狐笛のかなた」を読みました。思い出したら読みたくなったので。


この本は、おそらく私が初めて読んだ上橋菜穂子さんの作品。
そのあとに獣の奏者をアニメで知って小説も読んだんだったかな…
とにかく、この本を初めて読んだ時すごい好きだ、と思ったことは覚えてます。




威余大公(いよたいこう)の治める領土にある、春名ノ国(はるなのくに)と、湯来ノ国(ゆきのくに)。
二つの国は間にある若桜野(わかさの)をめぐって、数代前から争いが起こっていました。

小夜(さよ)が住むのは春名ノ国のはずれにある夜名ノ森の、さらにはずれの家。祖母と二人暮らしでした。

小夜が12の頃のある夜、小夜は怪我をした小狐を助けます。
その途中、夜名ノ森の中にある、里では「化け物屋敷」と呼ばれる森陰屋敷の中へ隠れ、そこで小春丸という少年と出逢いました。

それから小夜はたびたび夜に家を抜け出して森陰屋敷に忍び込み小春丸と遊んでいましたが、ある日見つかりそうになって、それ以来行くことは無くなってしまいました。


数年が過ぎ、祖母が亡くなり、街へ出かけた小夜は、そこで自分を知る人物と出会います。
それが、大朗(だいろう)と鈴の兄妹でした。
2人は小夜だけでなく、亡くなった小夜の母親のこと、そして小夜が祖母以外誰にも秘密にしていた小夜のある「力」のことも知っていました。

その当時春名ノ国と湯来ノ国の間では後継の問題が起こっていました。
春名ノ国では後継候補だった一人息子が亡くなり、湯来ノ国から後継が送られようとしていたのですが、そこに春名ノ国の領主、雅望(まさもち)が待ったをかけます。

実は彼にはもうひとり息子がいたのです。
そしてそれが、小春丸でした。

小春丸に呪いをかけ跡継ぎを失敗させようとする湯来ノ国と、それを守る春名ノ国。
その二国間の争いに、小夜はその「力」をきっかけに巻き込まれることになります。

そこで再会したのは小春丸だけでなく、あの夜助けた小狐でした。



小狐の名前は、野火(のび)。
彼は霊狐で、湯来ノ国の術者に飼われた使い魔でした。

小春丸を助けようとする小夜とは敵対しているにもかかわらず、野火は主人に背いてまで小夜を守ることに決めます。
使い魔である野火にとって主人に背くことはほとんど死ぬと決めることと同じでした。

野火は使い魔として、おそらくたくさんの人を手にかけてきたんだと思います。
でも、小夜の懐に入れられてその温かさを知ってしまったから、命を奪うことがずっと苦しかった。
めちゃくちゃ優しい子なんですね、たぶん。


あんまり喋らない野火ですが、だからこそたまにくる野火のセリフがすごく響くんです。
途中で大朗に「小夜を守るつもりなのか」と聞かれて、ためらわずにうなずいたところとか特に。
「この命ある限り」というようなことを言うんですが……その決意がすごい。主人にばれたら死んでしまうのに。

児童文学とはいえわりと内容も深い気がする…小学生の時これを読んで自分が何を思っていたのか気になります。
成長したからこそわかる違いなのかも知れないですが。

憎しみの連鎖とか、それに巻き込まれ屋敷に閉じ込められていた小春丸、争いに巻き込まれ母を失っていた小夜とか……文体自体は読みやすいけど意外とレベル高いと思います。

野火と小夜の恋も、もちろん。