あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『狐笛のかなた』 上橋菜穂子

2021/12/17

狐笛のかなた
上橋菜穂子
分類: 913


映画「鹿の王」、とうとう公開日決まりました!
全然お知らせないから、まさかお蔵入り…?とか心配してたのでほんとに良かったです。


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というわけで公開日決定記念ということで、上橋菜穂子さんの「狐笛のかなた」を読みました。思い出したら読みたくなったので。


この本は、おそらく私が初めて読んだ上橋菜穂子さんの作品。
そのあとに獣の奏者をアニメで知って小説も読んだんだったかな…
とにかく、この本を初めて読んだ時すごい好きだ、と思ったことは覚えてます。




威余大公(いよたいこう)の治める領土にある、春名ノ国(はるなのくに)と、湯来ノ国(ゆきのくに)。
二つの国は間にある若桜野(わかさの)をめぐって、数代前から争いが起こっていました。

小夜(さよ)が住むのは春名ノ国のはずれにある夜名ノ森の、さらにはずれの家。祖母と二人暮らしでした。

小夜が12の頃のある夜、小夜は怪我をした小狐を助けます。
その途中、夜名ノ森の中にある、里では「化け物屋敷」と呼ばれる森陰屋敷の中へ隠れ、そこで小春丸という少年と出逢いました。

それから小夜はたびたび夜に家を抜け出して森陰屋敷に忍び込み小春丸と遊んでいましたが、ある日見つかりそうになって、それ以来行くことは無くなってしまいました。


数年が過ぎ、祖母が亡くなり、街へ出かけた小夜は、そこで自分を知る人物と出会います。
それが、大朗(だいろう)と鈴の兄妹でした。
2人は小夜だけでなく、亡くなった小夜の母親のこと、そして小夜が祖母以外誰にも秘密にしていた小夜のある「力」のことも知っていました。

その当時春名ノ国と湯来ノ国の間では後継の問題が起こっていました。
春名ノ国では後継候補だった一人息子が亡くなり、湯来ノ国から後継が送られようとしていたのですが、そこに春名ノ国の領主、雅望(まさもち)が待ったをかけます。

実は彼にはもうひとり息子がいたのです。
そしてそれが、小春丸でした。

小春丸に呪いをかけ跡継ぎを失敗させようとする湯来ノ国と、それを守る春名ノ国。
その二国間の争いに、小夜はその「力」をきっかけに巻き込まれることになります。

そこで再会したのは小春丸だけでなく、あの夜助けた小狐でした。



小狐の名前は、野火(のび)。
彼は霊狐で、湯来ノ国の術者に飼われた使い魔でした。

小春丸を助けようとする小夜とは敵対しているにもかかわらず、野火は主人に背いてまで小夜を守ることに決めます。
使い魔である野火にとって主人に背くことはほとんど死ぬと決めることと同じでした。

野火は使い魔として、おそらくたくさんの人を手にかけてきたんだと思います。
でも、小夜の懐に入れられてその温かさを知ってしまったから、命を奪うことがずっと苦しかった。
めちゃくちゃ優しい子なんですね、たぶん。


あんまり喋らない野火ですが、だからこそたまにくる野火のセリフがすごく響くんです。
途中で大朗に「小夜を守るつもりなのか」と聞かれて、ためらわずにうなずいたところとか特に。
「この命ある限り」というようなことを言うんですが……その決意がすごい。主人にばれたら死んでしまうのに。

児童文学とはいえわりと内容も深い気がする…小学生の時これを読んで自分が何を思っていたのか気になります。
成長したからこそわかる違いなのかも知れないですが。

憎しみの連鎖とか、それに巻き込まれ屋敷に閉じ込められていた小春丸、争いに巻き込まれ母を失っていた小夜とか……文体自体は読みやすいけど意外とレベル高いと思います。

野火と小夜の恋も、もちろん。