あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『本のエンドロール』 安藤祐介

2021/12/28

本のエンドロール
安藤祐介
分類: 913


書籍の売り上げが低下する時代の中でも奮闘する印刷会社の話。


豊澄印刷に中途入社した営業第二部の浦本学(うらもとまなぶ)。

この本には、彼が関わった中のうち5つの本にまつわるエピソードが収められています。



浦本は、もともとは大手印刷会社にいたのが、そこでは本の印刷をしておらず、書籍印刷をするために豊澄印刷に転職しました。

「印刷会社はメーカーだ」という考えを持ち、意欲的に仕事に取り組む浦本。

しかし、転職して数年経ってもまだまだミスは多く、スケジュールの調整や営業に追われる日々です。

印刷会社はメーカーという信念を持っているものの、積極的になりすぎると上手く行かないことも多々あり、悩みながらも、自分にとっての仕事の方向を探しながら毎日走り回っています。

出版直前になって誤植が見つかったり、担当の編集が音信不通になったり、超低コストで本を作らなきゃいけなかったり。

トラブルばかりですが、その中でも彼は一緒に働く仲間と共に、大切な絆や気づきを得ていきます。



大手会社の機械化によって熾烈化する価格競争や、電子書籍の普及など、出版のシビアな現実を色々と実感しました。

私は基本的に紙の本で読みますが、電子には電子のいいところがあるのもわかるので……
「求める人がいるならそれでいい」というのは、確かにそうだなと思います。


そしてもちろん、印刷や出版という世界の魅力的な面もたくさん知ることができました。

紙の材質とか仕上げとか…よくわからない専門用語なのになんだかワクワクしてしまいます。
専門用語ですらすら会話してるとこみると、かっこいーってなりますよね。


編集を通った後も、ちゃんと「本」にするためのオペレーターなどの存在とか、工場で大量の紙が積み上がっているところを想像したりとか…。
こうやって本って出来てるんだなと思うと楽しいですね。


あともうひとつ、他の登場人物たちもそれぞれに個性があって面白いんです。

個人的にはDTPオペレーターの福原笑美と、工場で特色をつくる職人のジロさんが好きです。

ふたりとも自分の世界があってブレない。
こんなふうに働きたいなって思わせてくれます。

他にも同じ営業第二部のベテラン、仲井戸や、同い年で工場の責任者の一人である野末、関連会社の編集者、奥平翔、通称「オウヘイ」などなど。

野末は家庭でちょっとした問題があって、そのへんが妙にリアルで途中、読むのが辛かったです。


とにかく、印刷に限った話ではないですがやっぱり奥が深い。印刷の工場に行ってみたいなとすごい思いました。

ちなみに…特色というのは、CMYKインクの標準の組み合わせでは出せない色のこと。
職人さんが直接インクを混ぜて色を作り出します。

こういう技術も最近では機械化されてきているそうです…そうなるともう「特色」ではないけど。


本や印刷の話だけでなく、仕事についても色々と考えさせられる一冊でした。