あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『光』 三浦しをん

2021/04/09

光 (集英社文庫)

光 (集英社文庫)


三浦しをん
分類: 913

※注意!この記事は「光」のネタバレを含みます。

どこで知ったのか忘れたけど、読みたい本リストに入っていた本。
私は読みたい本リストを作って、それを借りようと図書館に行くと、他に面白そうなのを見つけてしまって結局目的のものを借りずに終わることがよくあるので、リストがどんどん溜まっていってます。これからはそれを消化する期間にしようかな。


タイトルと表紙から、明るい話ではないと思っていたけど…なかなかに重かったです。でもそれだけの重力があってめちゃくちゃ引き込まれました。特に後半。

離島に住む信之は、ある日津波で家族を失い、たった五人しかいない島民の生き残りとなった。島での最後に、信之は幼馴染の美花を守るために罪を犯す。そして二十年後、信之の前に再びその罪が現れて、平穏に見えた日常が崩れていく。

タイトルが光だからか、読んでると「光」って単語に目が留まりがちでした。
どうして「光」ってタイトルなのかも気になります。
白夜行みたいにそれぞれにとっての「光」の存在ってことなのかなとか、津波で壊滅した島の惨状を目の当たりにした時の「光」なのかとか。そういえば、大事なシーンには早朝や朝が多かった気がします。
最後に信之が家に帰ったのも朝だった。朝=光ってわけじゃないけど、この本の中では太陽の光や機械的な光が重要な役割を果たしていたんじゃないかと思います。次に読む時はそれを考えてみようかな。今回はただ話に入り込むので精一杯でした。


あの津波のせいなのか、元々なのか、信之はあまり心を揺らさない人でした。家庭も仕事も、上手くいくようにいつも立ち回っている。でもその目的が見えない。信之がそうしたいからではなくて、そうじゃないといけないから、を優先してるように見えます。
妻のほうも「夫」の像を信之に求めているだけで、そこまで関心があるわけじゃない。それか、もうすでに知っている気になってるのか。
内も外も、様子だけでは特に問題があるようには見えないし、実際ふたりとも壊したいわけじゃなくて、上手くいくように動いてる。
だけど…良い悪いの話じゃないとは思うけど、つまんなさそうだな、とは思います。
どうせなら苦しいことだけじゃなくて楽しいことがたくさんあるほうを選んだ方がいいのに。
まあそこは大人の事情ってやつかな。

信之が一度失踪して、南海子が娘の椿に手を上げるシーン。あれが一番怖かった。
椿をなんの脈絡もなく叩いて、驚いて泣く椿に対して「そんなに痛くなかったでしょ」って言う異常さ。
真顔でそれを言うところを想像したら本当に、狂ってる、って感じました。


「暴力で傷つけられたものは、暴力によってしか恢復しない。」
これは信之の言葉。一番印象が強かった文です。
信之は美花のためと言って二人殺した。輔の父親だって死なせるつもりだった。

私の好きな漫画にPandora Hearts っていう作品があるんですが、その中で、「誰かのためにを言い訳にしない」っていうのが出てくるんです。それを初めて読んだ時とても心に刺さりました。
誰かのために行動するのは悪いことじゃない。でも、誰かのためにを言い訳にしていたら本来の目的も、自分の望みもわからなくなる。

信之はそういう状態なんじゃないかなと感じました。
美花のために。だからこれはまちがっていない。
それを周りが否定したところで信之は考えを変えることはそうそうないだろうし、信之の考えも理解できないものじゃないと思います。
だけど誰かひとりでも、それに気づいて止めようとする人がいてほしかったと思います。

美花のために殺人だってやっていたけど美花と一緒になることはできなくて、それでも死のうとは思えない。そういうところが信之らしいといえばらしい。
本当に、なんのために生きているのかを考えなくなったんだろうな。

美花も美花でいっつも思わせぶりな態度ばっかりとって結局信之のことなんて何も考えてないし。南海子なら少しは歩み寄れそうだけど。
結局美花は何を考えてたのか、いまいちわからなかったですね。本当に何も考えてなかったのかな。
おそらく一番わかりやすいのは輔。ひねくれてるけど、でも人間味がある。変だけど、「普通に変」。


いろんなシーンにおいて、描写が生々しくてリアルで、なんか…実際その場で見てるくらい。
そしてありがちなハッピーエンドが全くもって想像できなかった本でした。先の見えないトンネルみたいで、光が見えるような見えないような。もちろん、本としてはとても面白くて、これだけ色々考えるくらいの密度がありました。重いけど、引き込まれる。
あ、終始暗いからタイトルくらい明るくしとこうと思って「光」なのか?なんて。

久々に重めの本を読みました。そういえば、三浦しをんさんの本を読むの初めてかも…あ、「きみはポラリス」読んでた。
あと、「舟を編む」の映画を見てめちゃくちゃ笑ったのも覚えてます。「まほろ駅前多田便利軒」も映画良かった。
近いうちに原作も読みたいです。