あおい本棚

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『ライオンのおやつ』 小川糸

2021/04/10

ライオンのおやつ

ライオンのおやつ

ライオンのおやつ
小川糸
分類: 913

なんだか不思議な本でした。

二十代にしてガンで余命わずかとなった雫が、最期の日々を瀬戸内海を臨む島にあるホスピス「ライオンの家」で過ごす話。

なんでタイトルに「おやつ」が入ってるかというと。
この「ライオンの家」では、毎週日曜日に「おやつの時間」というものがあって、誰かひとりの「思い出のおやつ」を忠実に再現したものが振る舞われます。入居者の人はそれぞれ箱の中に自分のリクエストを入れて、そこから毎週くじ引きのようにひとつ選ばれるシステム。
ただ食べ物の名前を出すだけでなく、色や形や匂い、記憶に残っているエピソードなどもリクエストには含まれます。

実の両親とは幼い頃に死別し、「父」と呼ぶ叔父のもとで育ってきた雫。叔父の結婚を機に離れて暮らすようになり、今回は病気のことも余命のことも何も告げずに来た。
雫はこの島で、まわりの人や犬にご飯、そして自然に癒されながら、これまでの日々やこれからのこと、今の自分と向き合うようになります。

ライオンの家での日々がいくつかのテーマとともにぱらぱらと語られて行く感じなんですが、登場人物それぞれに面白い個性があって楽しいです。ここではそれぞれ呼ばれたい名前を決めます。
ライオンの家を運営するメイド服を着た「マドンナ」、食事の用意をしてくれる「シマさん」と「マイさん」の狩野姉妹、隣の部屋の軽くてチャラそうな雰囲気の「アワトリスさん」(ちなみに漢字では「粟鳥洲」で、クリトリスと間違って呼ばれることを狙っている)、前の入居者の人が連れてきてそのままライオンの家で飼われている犬「六花(ろっか)」、近くの葡萄畑でワインをつくる「タヒチくん」…などなど。

タイトルに「おやつ」がつくだけあって、食べ物に関わる話が多かったように思います。ライオンの家で出される毎朝のおかゆ、瀬戸内のものを使った美味しい日々のご飯、葡萄畑、ワイン、そしておやつ。
どれも幸せそうな雰囲気があって、実際、雫は食べ物をきちんとすることで救われていったと思います。それと六花。六花と雫はそれはもう仲が良さげでした。


なんていうか、ふわふわして、途切れ途切れで、夢でもみてるような感じの本でした。
一貫したストーリーがあるわけじゃないので、あっちにいったりこっちにいったりします。主体が雫というのは変わらないけど。特に最期の方は雫の病気が進んで、時間も場所も、現実か想像かもすべてごっちゃになるので、突然ありえない状況になったり、一週間抜けたりして、いっそう途切れる感じが強かったです。

人はどうやって死ぬのか。
誰かが亡くなる瞬間に立ち会ったことは一度もないですが、このライオンの家で暮らして迎える最期は、とても幸せなことなんだろうなとは思いました。こういうふうに死にたいかと言われるとよくわからないけど……

死っていうのが良くわからないのは、まだそれをちゃんと考えたことがないから、何より自分がそうそう死なないと思ってるからじゃないかと思います。
だから多分、この本もあんまり刺さらなかった。
でもいつかは死ぬんだし、遅いか早いかの問題かな。それがいつかは誰にもわからないですが。

突然死ぬのと、こういうふうにガンで余命宣告されて死ぬまでの期間がある程度わかってるのと、どっちがいいんだろう……死んだことがないので、分からないですね。死んだ後にああやって死んでれば良かったーとか考える時間ってあるのかな。

まあとにかく、この本はまた少し経ってからもう一度読んでみたいです。