あおい本棚

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『光待つ場所へ』 辻村深月

2021/04/06

光待つ場所へ (講談社文庫)

光待つ場所へ (講談社文庫)

光待つ場所へ
辻村深月
分類: 913

※注意!この記事は「光待つ場所へ」と「冷たい校舎の時は止まる」のネタバレを含みます。

読み始めたの自体はもう一年近く前な気がするんですが、最後まで読んでいなくて今回ようやく読み終えました。

構成としては短編集なので、その最後の話にあたるところだけ読んでなかったみたいです。
パラパラめくって、あ、ここ読んでない、と思ったとこから読みました。

ちなみに私は栞は使わない派です。特にページ数を覚えておくわけじゃないですが。
どこまで読んだかなーってめくって確かめるのが好きなんですよね。パラパラしてる時にそれまでのシーンをざっくり思い出せるし。
でも、最大の理由はめんどくさがりだからです。


この「光待つ場所へ」は、同じく辻村深月さんの「冷たい校舎の時は止まる」や「スロウハイツの神様」などの、スピンオフ、つまり後日談みたいな感じです。
辻村深月さんの作品はひとつの小説に登場する人物たちがスピンオフや別の作品にも登場したりして、そこがとても楽しいんです。あ、この子あれに出てきたあの子だ、今はこんな感じなんだ、ってなるのが面白い。

裏を返せば読むのにちょっと順番が必要になります。まあそこまで深く関わるわけではないから、元ネタを知らなければほとんど忘れちゃうようなことかもしれないんですが…でも、できるだけ順番考えて読んだ方が楽しめるかなーと個人的には思います。


というわけで、主に「冷たい校舎の時は止まる」を読んだあとに読むのがおすすめです。でもそのままでも短編集として楽しめます。
私が好きだったのは、「しあわせのこみち」と、「樹氷の街」、あと最後のエピローグ的な超短編


「しあわせのこみち」は、大学生になったあやめが、それまで自負していた自分の感性を上回るものを目の当たりにするという話。

世界を強く見るのには、能力がいる。感性という武器がいる。そしてその武器を持っている人間は選ばれた一握りの人間たちだけだろうと思っていた。

これ、なんか共感しました。私も、空とか風とか空気の匂いとか好きで、あんまり他の人はそういうのに気づいてる感じじゃなかったからきっと自分くらいなんだろうな、と思って、そういう自分に酔っていた。

でも実はそんなことはなくて、それに気付く人が多いとは言えないかもしれないけど、でも珍しいわけじゃないってことを、本を読んで私は知りました。周りにもそれを好きだという人はいっぱいいた。
もちろん、だからといって好きじゃなくなることはなくて、ちゃんとその気持ちを大切にしていこうとは思っています。
だけど「自分に酔ってる自分」にうんざりはしました。

こういう話を読むと、自分のことを気づかせられて自分に嫌気がさしたりもするけど、それ以上に、自分と同じように考える人もたくさんいるんだってことを知って、なんかほっとする。
ちなみに、この話の中では鷹野が登場し深月の話をしていて、ふたりとも元気にしてると知れて嬉しかったです。


樹氷の街。これも、たくさん見知ったキャラクターが出てきました。郁也に椿、秀人、多恵、理帆子。
合唱コンテストをめぐった、指揮者の天木と伴奏者の倉田、そして郁也の話。

倉田は女子の間であまり評判の良くない子で、伴奏もそこまで上手くない。天木はどうにかクラスをまとめたいけど、女子たちは不満ばかり漏らすし、倉田は責められるとすぐに泣いてしょげてしまう。

椿(ふみちゃん)と倉田がどんな話をしたのかがすごく気になった。倉田は椿のことを良く思っていなかったはずなのに、いつの間にか親しげに会話をするようになっているから、きっと何かあったんだろうけど、そこが見れないのが残念。
椿はもとからとても聡明で、周りを包み込むような雰囲気を持ってる子だから、たぶんそこをちゃんと知ることができたらみんな好きになると思うんですけど。

最初は媚びるように天木に接していた倉田も、一度倉田が天木に失望して、そしてそこから椿や秀人の助けを借りて気持ちを通わせるようになってから、それなりに素を出していくようになった。
倉田は天木が好きで、天木はそれに応えられないとわかってるからこその付き合い方みたいなのが、ふたりの間に出来てきた気がします。
結ばれたらそれはそれでハッピーエンドかもしれないけど…読んでる限り天木は倉田に対し本当にクラスメイト以上の興味がなさそう。

椿と秀人の関係も微笑ましいし、ラブラブなことが良くわかります。ほんとによかった。すごく頑張ったんだなあ、ふたりとも。
なんていうか、年下とは思えません…

この話は天木と倉田が多く出てくるけど、メインは郁也かな、と思いました。まあ結局郁也の話がほとんどだったし。
多分それまでできるだけ目立たないように生きてきて実際交友関係が広くなかっただろう郁也が、家庭関係のことも含めてとうとう周りに知られていく。
たしかに抱える秘密は大きいけど、でもそれを知って関わっていける人たちが周りに増えたんだなと思うと嬉しいです。

最後に理帆子が出てきたのも嬉しかった。理帆子と郁也、家政婦の多恵は「凍りのくじら」に登場するキャラクターで、椿と秀人は「ぼくのメジャースプーン」に登場します。どこに出てくるのかは、ぜひ読んで確かめて欲しいです。
ちなみに「凍りのくじら」は今までで一番刺さった作品で、私にとって、とても大切な本です。またそのうち読みたいので、そしたら記事にしようかなと思います。


そして最後の「冷たい光の通学路」。それぞれ小学校で教員をやっている、榊と、チサトの話。

チサト先生が、告白の返事がなくて落ち込む紗奈に言った、「いいことでも嫌なことでも、どっちでも、よく覚えておくといいよ」っていう言葉。

なんて素敵な先生なんだろう、と思いました。自分の人生の経験から知ったことを、こんな素敵な心に残る言葉に置き換えて伝えることができるなんて、本当に「先生」だと思います。
これを読んだ後、チサト先生や榊みたいな大人になりたいって心底思いました。
自分が子どもなのか大人なのか、微妙なところですが、なんだかぐるぐるめんどくさい大人になんてなりたくないってずっと思ってました。
ずっと子どもでいれば、まだ純粋さがあって、「大人」に対して文句が言える気がしてた。
だけどこの話を読んでからは、こんな素敵な大人になりたいと思えるようになりました。
ずっと子どもでいたいと思ってたけど、でも、こういう大人になって、子どもを守る側になりたい。

まあ、実際まだまだなんですが…そこは、がんばります。

そういえば、この本の話は全部同時期とかなのかな…「冷たい校舎の時は止まる」は、良く考えたらスピンオフはあるけどキャラが他作品に出てくることがあんまり(全く?)ないから、年齢関係とかが良くわからない。

鷹野やあやめは二十歳ごろ、昭彦は大学卒業だからその二年後くらい、チハラトーコは二十九…「スロウハイツ」から数年後で、でも「樹氷の街」は「凍りのくじら」から多分四、五年後で、「凍りのくじら」は「スロウハイツ」よりは確実に前だから…うーん?
スロウハイツに理帆子が出てきたのは覚えてるけどどんな感じで出てきたのかを覚えていない…またいつか確認してみます。