あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『イン・ザ・プール』 奥田英朗

2022/03/24


イン・ザ・プール
奥田英朗
分類: 913


めちゃくちゃ変な本!
というのが率直な感想ですね。

変な医者、変な患者、変な状況!いやー、変な本。


伊良部総合病院の神経科に訪れる五人の患者の話です。


最初の話は、表題作『イン・ザ・プール』。

大森和雄は、仕事のストレスで体調不良が続き、身体的には何の問題もなかったことから神経科に回されます。

まず、神経科の医師、伊良部(いらぶ)がとにかく変人です。
体調不良の改善について相談しているシーンがこちら。

「と言いますと……」ほう、何か策でもあるのかと思った。
「たとえば、繁華街でやくざを闇討ちして歩くとかね」
和雄が三たび眉間にしわを寄せた。
「これはシビれるよ。つまらない悩み事なんて確実に吹っとぶ。なにしろ追われるわけだからね。命すら危ないときに、どうして家や会社のことなんかにクヨクヨできるのよ」

と、まあこんな感じのことを冗談じゃなくてわりと真剣に言ってます。
すぐに注射をしたがるし、その注射をしてくれる看護師も無愛想でなんか変だし。

不審に思いながらも和雄は通い続けて、そのうち運動すべきだと考えてプールに通うことになります。

そこからさらに変なほうに進んでいくんですが……

なんと和雄はプールに行かないと禁断症状が現れる、プール依存症になってしまいました。

プール依存症って…!?って感じですよね。でもほんとに、プール依存症なんです。

プールに通いたいあまり仕事も家もおろそかになって……でも最後には伊良部のとんでもない行動をきっかけに、どうにか納まります。


途中で伊良部が自分もプールに通うと言い出して、「ビキニとトランクスどっちがいいかなあ」なんて言ってるところに和雄が心の中で突っ込んだ、「おまえがビキニ?」というのが一番笑いました。



次が『勃ちっ放し』。
これは……文字の通り、戻らなくなってしまった男の話です。
説明しにくいので、詳しい内容は、読んでみてください笑


三つ目が『コンパニオン』。
コンパニオンをしている安川広美が、ストーカー被害を訴えるけど実際の証拠がない。
心身的な問題だということで神経科にかかるよう勧められ、伊良部の部屋を訪れます。

雑なところを見せたり、自分をめちゃくちゃ高嶺の花に見えるようにしたりと伊良部の提案に乗ってるみるも、ストーカーからの視線は増え続けるばかり。

最後に、女優のオーディションでライバルに妨害されて、腹を立ててスタッフに「わたしが一番ですよね」「わたしきれいですよね」って詰め寄るシーンがあるんですけど、なんかそこがすごく印象に残りました。
周りが見えていないシュールさというか……世にも奇妙な物語とかに出てきそう。



そして、『フレンズ』。
携帯依存症となった高校生の話。

今は携帯って人間として必需品みたいになってるから、多少依存してたとしてもそれは「普通」ですが、この頃は「携帯依存症」のハードルが低かったんじゃないかなーと感じました。

ただ、主人公は現在で見ても完全に携帯依存症です。握ってないと手が震えたりします。

笑えるような笑えないような話でした…笑


最後の『いてもたっても』は、これも世にも奇妙な物語に出てきそうなシュールで不思議な感じでした。

ルポライター岩村が、強迫性障害になってしまうところから始まります。
火の不始末が気になって何度も家に戻ることから始まり、そのうち遠くへ行けず家を出ることすら難しくなります。

根本的な意識としてはどうやら、自分の手が触れたものや関係が出来たものの責任を取らなきゃいけない、ってところが怖いみたいですね。

なぜかその後、取材した後に犯罪未遂を起こして消えたホームレスの行方が気になって仕方なくて追いかけたら、実は麻薬の密売人だった、なんてことも起こります。

ここは、なんじゃそら!ってめちゃくちゃ心の中で突っ込みました。

そんなこんなで岩村強迫性障害はどんどん幅が広がっていくんですが……

ラストでは相変わらず伊良部が暴走し、それをきっかけに転機が訪れます。



伊良部は変人だし、バカだけど、精神科医としては天才なのかも。

こういう「治療」を素でやってるんだろうし、最終的にはなんだかんだ落ち着くし。

それにたまに鋭いんですよね。

まあ、とはいえやってくる患者が特殊なケースだらけなのであんまり参考にならないかもしれないですが。


とにかく変な患者と変な医者と変な看護師の話でした!