あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『星の子』 今村夏子

2022/01/04

星の子
今村夏子
分類: 913


映画化もした本です。
芦田愛菜さんが主演をしていて、見てみたいと思ってたんですが先延ばしにしてたら気づいたら終わってました…どこかで配信やってるかな。


あらすじを読んだ時、なかなか壮絶な内容だから読むの大変そうと思ったのですが…読んでみると意外とそうでもないです。
パッと見は。



ざっくり紹介すると、小さい頃体の弱かった主人公のちひろの両親が、ちひろの体を治そうとして新興宗教にのめり込むという話。
のめり込んでいく過程というよりは、両親のそんな状態が日常となったちひろの話です。

きっかけは、小さい頃ちひろが悩まされていた発疹が、父の会社の同僚から紹介された新興宗教の販売する「金星のめぐみ」という水を使うようになって治ったこと。
タイミングの問題か本当に水の効果なのか、わかりませんが、それをきっかけに両親はその「水」とその宗教団体を神聖視し、そこから普通ではない日常が始まります。


水に浸したタオルを頭の上に置いて生活をしたり、研修や集会に参加したりと、両親ほどではないもののちひろ自身もその団体での活動は行っています。
でも、特に「金星のめぐみ」の力を両親のように信じているというわけでもないみたいです。
ただ両親が好きで、その団体での活動も嫌いじゃないから続けているという感じ。

たしかに、過激な活動をするわけじゃないから、わかりやすく「やばい宗教」というわけでもない。


それでも家族の周りではそれが波紋となって変化が起きていきます。


ちひろの叔父が、両親の目を覚まさせようと一度「金星のめぐみ」を水道水と入れ替え、いつものように水を使う両親にそのことを暴露した場面は……怖かったです。

そしてちひろが小学生の時に、高校生の姉が家を出ます。もとから姉はその宗教団体が好きではありませんでした。

「変な新興宗教にのめり込んでいる家族」として周りから距離を置かれたり、好意を抱いていた学校の先生から嫌悪感を向けられたり。

起こっていることだけ見れば色々あります。

でも不思議なのが、その事件のどれもが「重くない」ってことです。
文体もあるかもしれないけど、淡々としているというか、ふわふわしているというか……最大は「情報が少ない」ということかもしれません。


すべてちひろの視点からしか描かれず、なのでちひろの知り得ないことは私たちにも分からないんです。

ちひろは両親から愛され、宗教団体にも普通に馴染んでいたから、よく言えば素直、悪く言うとあまり想像力がないというか……目の前のその先を想像して追及するということがほとんどありません。

姉のことにしても、姉にとってはおそらく色々と壮絶な体験をしてきたはずだと思うんですが、それは具体的には書かれないからぼやけたまま終わってしまいます。

家族のこれまでについても、あの落合さんの息子にしても……
読み終わった時、「え、終わり?」って思ったくらい、書かれてない現実が圧倒的に多すぎて、それがめちゃくちゃ怖い。

本当にひとりの女の子の日記みたいな感じですね。

読んでる途中も、なんか色々おかしい気がするけどその解説もないままどんどん進んでいくから、誰か説明してーってずっと思ってました笑

最後の終わり方も、一見普通だけどなにか不穏……

起きている現象の割にすっごく読みやすいです。
読みやすすぎるから怖いんですが…でも面白い。

他の作品もこんな感じなのかな。読んでみたくなりました。