『宵山万華鏡』 森見登美彦
2021/11/11
結構怖い。「きつねのはなし」みたいな不気味な感じがすごい出てました。
京都の「宵山」を舞台に繰り広げられる6つの短編からなる短編集です。
宵山
そもそも宵山ってなんなのかというと…
京都、祇園祭のメイン行事『山鉾巡行』の前日のことだそうです。
前と後があったり、2,3日続いたりと色々あるみたいですが…まあ詳しく知りたい方は調べてみてください。
山鉾の前だから、宵山、なんでしょうか。要は、お祭りってことですね!
そんな騒がしいお祭りの中で起こる六つの出来事。お祭りの賑やかな雰囲気はあんまり感じられなくて、話の不気味さにかえってお祭りの騒々しさが怖くなってくるくらいです。
宵山姉妹
バレエ教室の帰りに姉のわがままから宵山を覗きに行く小学校中学年くらいの姉妹。
乗り気でなかった妹は、そのうちに姉とはぐれてしまいます。
道もわからず、途方に暮れた状況で出会ったのは不思議な女の子たち。道案内をしてくれるというので妹はついていくんですが…
もちろん、すんなりいくわけないですよね。
ある意味わかりやすい、でも宵山怖い、と思うにはじゅうぶんな話でした。
宵山金魚
京都に就職した乙川を訪ねてきた高校時代の友人・藤田。
乙川は昔から、超巨大金魚を育てるなど突飛なことばかりする奴でした。藤田はそれに憧れたり振り回されたり…この人の作品にはよくこういう関係出てきますね。
祇園祭には司令部があってルール違反をすると罰せられる。
そう乙川は藤田に警告しますが、この手の脅しには騙され慣れている藤田は相手にしません。
しかし…宵山の最中に金太郎飴を踏み潰したことから、ルール違反だと言われて藤田は司令部と名乗る集団に連れ去られてしまいます。
そこから藤田はあれよあれよという間にいろんなところを引き回され、超金魚だとか宵山様だとか、まるでアニメの中のようなものたちに囲まれます。
そして最後には、拍子抜けするような結末が待っています。私は笑いました。
最初に藤田が連れていかれる時の金太郎のシーンが怖かった……
宵山劇場
「宵山金魚」につながる話。あんまり詳しくいうとネタバレにつながるので特に何も言いませんが……いやー、ばかだなあって笑えます。
宵山回廊
たぶん一番怖かった話でした。
京都に住む千鶴は宵山の日、叔父のもとを訪れることになります。
15年前、千鶴と宵山に出かけた従姉妹、叔父の娘がその日から行方不明になったことから、千鶴は何となく叔父を避けていました。
その日は、叔父と付き合いの深い画廊の主、柳から叔父を尋ねるよう勧められ叔父の家に行きますが…
訪ねた叔父は様子が変で、毎日宵山で娘を探していると言います。
宵山はまだ始まったばかりだしそんな毎日続くものじゃない。千鶴はそう言いますが、叔父は、自分は宵山の中に閉じ込められていて抜け出せないのだと言います。
様子のおかしい叔父のあとを追って宵山へ出て行った千鶴は、そこで不思議な体験をすることになるんですが……
最初に画廊主の柳と会ったシーン。あれが一番怖かったです。
詳しくは忘れてしまったんですが、何で叔父を訪ねるのか、とかそんな感じのことを千鶴が柳に聞いて、柳が「だって、ほら」みたいな感じで女の子が持っていた赤い風船を指さすんです。
風船はその瞬間に割れる。それだけ。で、特にその直後の続きはない。
意味がわからないことが一番怖い、そう思いました。
なんで「だって」なのかも分からないし風船が割れることとのつながりもわからない。でもその光景の不気味さだけが良く分かる。
この話では「万華鏡」がキーワードでした。
宵山迷宮
これは柳視点の話。
実は、柳も宵山に閉じ込められている人だったんです。
前の話のわからなかったことが色々わかってちょっと安心できる回でもありました。
宵山万華鏡
最初の「宵山姉妹」の、姉目線の話。
実は姉は意図的にというか、はぐれるとわかっていて妹の手を離していた。
姿を追っていたはずが本当に妹を見失って、姉も宵山の中を探し回ることになりました。
「宵山姉妹」のアンサーソングみたいな、不思議だけどなんか落ち着く話でした。
それにしても、森見登美彦さんはこういう不気味なのが上手い。
騒がしすぎて逆に怖い、というか……本だとお祭りの騒がしさが実際には聞こえないから、余計に怖いのかもしれません。
私が初めて読んだ森見登美彦さんの作品が「四畳半神話体系」で、あれがインパクト強すぎたというか、不気味だったから、その印象をずっと引きずってるのかもしれないです。