あおい本棚

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『一九八四年』 ジョージ・オーウェル/高橋和久(訳)

2021/10/27

一九八四年
ジョージ・オーウェル/高橋和久(訳)
分類: 933

※この記事は「一九八四年」のネタバレを含みます。

これもまた有名なSF小説。最近SF多いな…

発表されたのは1949年、その当時にとっては近未来である1984年が舞台です。今ではもうとっくのとうに過ぎてますが。



主人公のウィンストン・スミスは記録局で働く男性。
この世界は第三次世界大戦の真っ最中で、彼のいるロンドンは「オセアニア」と言う国の中心都市。他にも「ユーラシア」と「イースタシア」があり、この三つの国で戦争を行なっています。

ただひとつの党、ビッグ・ブラザーによって統治されているオセアニア
そこではテレスクリーンという装置に家の中まで監視され、記録の捏造や改ざんは当たり前。
党員であるウィンストンも日々、過去の記録の修正を行なっています。修正っていうか、改ざんですが。

もとから党の考えに完全には馴染めず、今の現状を窮屈に思っていたウィンストン。
党の教えに反して日記をつけたりはしていたけど、大それたことをする勇気や行動力はありませんでした。

そこである日、ジュリアという女性に出逢います。彼女も党員で、積極的に党を支援する活動を行っていました。
でも彼女は実はとびきり反社会的な考えの持ち主で、ウィンストンも同じ考えだと見抜いて彼を誘い、ウィンストンの方もジュリアに興味を持ち好意を抱いていたのでふたりはこっそり会って一緒に過ごすようになります。

そのうち自信をつけたふたりは、存在が噂される地下組織「兄弟同盟」への接触を試みますが……


この先、だいぶネタバレします。ご注意ください。



まず全くもってハッピーエンドではないです。というか、どうしようもない終わり方。

地下組織につながろうと、党の中枢幹部のひとり、オブライエンに接触し、彼が兄弟同盟のひとりだと分かります。
オブライエンから渡された、兄弟同盟のバイブル的な本を読み進めるウィンストンでしたが…
ある日ジュリアとの密会場所がバレてふたりとも捕まってしまいます。

その後尋問場所で会ったのは他でもないオブライエン。
彼は結局のところ兄弟同盟でもなんでもなく、もとから2人を捕まえるつもりだったんです。

そこに囚われた思想犯や政治犯は、みんな最終的に「101号室」に送られ、拷問されます。
その拷問というのも、主には精神的なもの。
ウィンストンは徹底的に自分の思考や人格を否定され、矯正され、最後には自分の最も嫌うあるものを出しに脅され、とうとうジュリアを裏切ってしまう。
そのことで心が折れて、ビッグブラザーに心の底から従うようになる。

で、終わります。


読み終わったあとなんとも言えない感じが…

この世界ではビッグブラザーの教えが全て。すべての思想も言葉も過去の記録も何もかもが、党の思い通りになります。
オブライエンに尋問されているシーンで印象的な文がありました。

もし彼が床から浮かぶと思い、そして同時にわたしも彼の浮かんでいるのが見えると思うなら、そのときにはそれが現実に起きていることになる。


つい昨日まではユーラシアと戦争していたはずがある日突然、当たり前のようにイースタシアと戦争しているという報道がなされ、それに伴って過去の記録を全て塗り替える。

こういうことが当たり前に起きている世界なんです。

怖いなと思うけど、分からなくもないというか…

人によって見えている世界なんてそれぞれだから、どんなにありえないと思っても、周りが当たり前のようにそうだと思い込んでいたら、そうなんだと思ってしまうんじゃないでしょうか。
実際、ウィンストンも最初そうだったわけだし。

とはいえ2+2=5っていうのは数学的にルール違反だから納得できないけど…認知の問題って難しいですね。


面白いのは、この世界の技術力がそこまで高いわけじゃないってこと。
まあ70年以上昔に想像された状況だから、テクノロジーの程度の問題なら不思議じゃないんですが…
まず衛生環境がひどい。
近未来だったらそういうのをパパッとやってくれるような技術を創り出していてもおかしくないのに、ここにはそれがない。
むしろこの独裁体制が始まる前より悪くなっているようなんです。


こんな状況だと、一体なんのためにビッグブラザーはこの国を統治しているのかが謎です。
住みよい世界にするためでも、戦争に勝つためでも(敵がコロコロ変わることからたぶんまともな戦争はしていないと思う)、人類を補完するためでもなくて笑
統治するために統治しているって感じ。

本末転倒というか、目的を失った社会に見えました。

記録の改ざんにしても、こっそりそれをやるんじゃなくて仕事としてやらせてる。つまり記録が変えられていることは周知の事実ということです。これじゃあ誰に向けた改ざんなんだか…いつかこの記録を確認する未来の人とか?
そもそも「改ざん」っていう意識がない可能性もあります。



こんな国家はともかく、こういう、認識が現実を変えてしまう現象っていうのはきっと珍しくないんじゃないかなあと感じました。
誰でも多かれ少なかれ経験してるんだと思います。

結局、兄弟同盟っていうのは実在したのかな…党が潜在的な反社会的思想を炙り出すために創ったんじゃないか…予想ですが。
オブライエンから渡された本も、あからさまに党を批判するような文でもなかったからなんか引っかかってたんですよね…これがほんとに禁書なのか?っていう。


色々と謎は残るものの、とても面白かったです。