あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『おもしろ日本音楽史』 釣谷真弓

2021/07/02

おもしろ日本音楽史
釣谷真弓
分類: 768


日本の伝統芸能と絡めながら邦楽の歴史や特徴について紹介してくれている本です。
タイトルの「おもしろ」は嘘ではありません。ほんとに面白いです。


二週間歌い続けた白河法皇
印象に残ったのはいくつかあるんですが、第4章の後白河法皇の話もそのひとつ。
白河法皇はおそらく大抵の人が少しは聞き覚えがあると思います。平安時代末期の天皇で、退位したあとも院政をしいて実権を握り続けた…私もそれを聞いてぼんやり思い出せるくらいでした。
とにかく「無能」とされ、疎まれていた白河法皇ですが、今から見ると重要な功績を残していました。
それが大の「今様」好きで、邦楽についての優れた資料を現代に残してくれていたこと。
今様とは現代風のことで、要は流行りです。
今様の歌が大好きだった白河法皇は、身分に関わらず優れた歌い手などを集めて、伝統を受け継ぐためにも「梁塵秘抄」という歌詞集を残しました。
自身も、戦乱の中で15日にわたって歌合せを行うなど歌に明け暮れたとか…そりゃ政治家になる前に歌い手になれって感じですね。


みんな大好き「やつはし」さん
他にも、琴と箏の違いや成り立ちとかも面白かったです。お箏、尺八、三味線の合奏は合わせて三曲合奏と呼ばれるそうですが、著者の方が主にその三曲を専門としていただけあって、それぞれに関わる面白い話がたくさん詰まっています。

お正月によく聞く曲が「越天楽」や「春の海」という名前だったことも初めて知りました。「春の海」をつくったのは宮城道雄さんという方で、お箏の低音パートを担う「十七弦」を作った人でもあるそうです。
お箏は基本のものは十三弦なんですが、なんと八十弦なんてものまで作ってしまったらしく…演奏が難しいのとやはり大きいので普及はせず絶えてしまったそうですが。

そして箏曲の祖といわれる八橋検校(やつはしけんぎょう)さんの話。箏曲の伝統を守りながら新しい未来を開拓した人です。
京都でお馴染みのお菓子、八つ橋も実はこの人の名前が由来なんです。その理由はぜひ読んで確かめてみてください。


三線 わらべうた
また三味線のルーツである三線についてもとても面白い話がありました。
三線のルーツは沖縄にあり、沖縄では民族音楽が広く普及しています。
カチャーシーを聞くと踊り出してしまうということでしたが、今でもそんな感じなんでしょうか。

古くは庶民たちの身近なところから生まれたわらべうた、そしてそこから発展した民謡。
かつては仕事中などによく歌われていたものだそうです。今では歌を歌うっていうのはひとつの特殊なイベントのようになっていますが、そもそもはその時の感情や思いを表現するため、言葉に代わるものだったのかもしれません。
歌に乗せるとネガティブな詩でもなんだか明るく思えたりするし…受験期なんかにCMでよく「がんばれ」っていう感じでみんなで歌を歌っているところを見ますよね。あれのもっとささやかなやつが、日本の歌のルーツである民謡だったのかなあと思います。


他にも能や歌舞伎、人形浄瑠璃文楽、琵琶や木魚…などなど、いろんな日本音楽に関わる面白い話がたくさんあって、どれもこれももっと知りたいと思える様な話でした。
出版が2000年なのでちょっと情報が古かったりもするかもしれないですが…まあ面白いんでそこのところは気にしません!
同じシリーズで二年前くらいに出てる新刊もあるそうなのでそちらもチェックしてみてください。


ちなみに、お箏で思い出したのがこの漫画。

「この音止まれ!」という漫画なんですが、知ってる人いますか?
私は見ていないですが、とうとうアニメ化もされて…めちゃくちゃ面白いです。
お箏ってよりも青春要素のほうが強めかもしれないけど、絵も綺麗だしストーリーも面白いし演奏シーンなんか最高です。
この作者さんは絵での音楽や心情の表現の仕方がすごく上手いと思うので、ぜひ漫画も読んでもらいたいです。