あおい本棚

主に本、たまに漫画や映画の感想です

『ジヴェルニーの食卓』 原田マハ

2021/05/30

ジヴェルニーの食卓
原田マハ
分類: 913


アンリ・マティスエドガー・ドガポール・セザンヌクロード・モネにまつわる四つの話からなる短編集です。

読み終わってまず思ったのは、この本の紹介でどこかに書いてあった、「読む美術館」という単語がぴったりだということ。
実際に彼らの絵や作品を見たわけじゃないけど、読み終わると作品と向き合ったあとみたいな感じがします。それはこの小説という作品に対する感情でもあると思いますが、でもやっぱり「美術館」のあとだなあって思いました。


『うつくしい墓』は、家政婦をやっていた主人公がマティスのもとへお使いに行って彼に気に入られ、そのままマティスのもとで世話係になるという話。途中でピカソマティスの家を訪れます。
その頃マティスは晩年に入っていて、思うように動き回ることも出来ませんでした。そんな中主人公はその作品や彼自身と向き合い、マティスを心から尊敬するようになりました。


『エトワール』は、ドガの友人の画家メアリーから見た彼の話です。
ドガが少女のヌードモデルを描くことへの情熱に戸惑いを覚えるメアリーはモデルの少女から話を聞き、少女がモデルをする理由を知ります。それは、バレエダンサーの頂点であるエトワールになることでした。
その頃のバレエというのは今のように芸術性の高いものとは違いお金を稼ぐ、もしくは安定した生活を送るための手段でした。そういう事情も含めてドガは彼女たちのヌードを描いていたんじゃないかとも思います。ちなみにエトワールというのはフランス語で「星」という意味だそうです。


タンギー爺さん』はその名の通り、タンギー爺さんにまつわる話。画材屋である彼の娘からセザンヌに向けた手紙です。
このタンギー爺さん、確か前にもどこかで…と思ったら、同じ作家さんの「たゆたえども沈まず」に多分、出てきていました。これはゴッホの話ですが。いろんな画家が集まる場所だったみたいですね。
誰も彼もツケをためてるという話ばかり聞くから、本当にここの経営は大変だったんじゃないかと思います…


最後に『ジヴェルニーの食卓』。モネと、その義理の娘ブランシュの話。ブランシュが彼の娘となった経緯から、今現在、目の病気に悩まされながらも連作「睡蓮」を描いているところまで。
ブランシュはモネの世話をしていて、ゲストやモネの食事の支度もしているんですが…この時の料理の準備がもう、めちゃくちゃ美味しそう。
原田マハさんは、こういう生活のシーンの描写がすごいオシャレで素敵だと思います。こんなこだわった料理をする手間を自分がかけられたら…結局毎回簡単なものばかりになってしまいます。
モネとブランシュの関係も素敵です。こういうところが西洋っぽいというか、なんだか少し昔の映画を観ているみたいでした。


「読む美術館」だけあって、読んだ後の満足感や充足感も格別です。きっと絵が見たくなります。睡蓮やマティスの切り絵なんかは、いつか実際に見に行ってみたいです。