あおい本棚

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『ユージニア』 恩田陸

2021/04/13

ユージニア (角川文庫)

ユージニア (角川文庫)

ユージニア
恩田陸
分類: 913

うーん…これは、とりあえず、何も先入観とか予備知識なしでまずは読んで欲しいかもしれないです。
というわけで気になった方はこの記事を閉じてネットショップか図書館か本屋さんへどうぞ。



ある町の、地元でも名の通った医院の家で起きた毒殺事件。
誕生日会で振舞われた飲み物に毒が入っていて、乾杯をしてそれを口にした家の人ほぼ全員、それに近所の人や子どもも入れて二十人近くが亡くなった。
不思議な詩が残されていた以外に手がかりはなく、捜査は難航していたんですが、数ヶ月後、自殺したある男性の遺書から彼が犯人だという自白が見つかって、しかも証拠も見つかってほぼ確実となります。
でも、その犯人はその一家、青澤家とは何の関係もなかった。だからなんとなく消化不良のまま、この事件は忘れられていきます。


この本は、「ある人」が、事件から二十年ほどたったあとに関係者の話を聞いて回るというスタイル。群像っていうのかな。
それにちょこちょこ誰かの視点から書かれたシーンや独白が加わるって感じです。

事件の発見者であり、十年後に大学の卒論としてその事件について再び調べ「忘れられた祝祭」という本にした当時小学生だった女性、出版した本の担当者、同様に事件の発見者であるその女性の兄たち、事件の担当だった刑事、毒を飲んで生き残った青澤家のお手伝いさん、その娘、自殺した犯人をたびたび見かけていた近所の人…などなど。
人によって内容もところどころ違うし、犯人に対する印象も違う。
毎回、謎なところが出てきて、真犯人はこいつなのかなとか考えてしまいます。

一貫していたのは、青澤家唯一の生き残りである青澤緋紗子が、とても神秘的で不思議な魅力をもった少女だったということ。
彼女は幼い頃に失明してしまうんですが、それを感じさせないくらい周りをよく感じて生活しています。
そして何より、それぞれの話からは、彼女が真犯人ではないかという印象を受けました。
最後にどうなるかは…読んでみてのお楽しみですが。


ちなみに私は何もこの本の内容を知らずに読み始めたので、もう最初は何がなにやらわからないし、この本のテーマがなんなのかも全くわかりませんでした。単行本だから裏のあらすじもなかったんですね。
でもそれでかえってこの本の不思議さを感じることになったかなあと思います。

基本的にインタビューだけど、たとえば途中で当時の回想みたいなの入って、そこではなぜか登場人物の名前が若干変わったりしていて、一瞬なんだこれってなりました。
近所の女の子目線で書かれた当時の話。フィクションっていうか、小説みたいな感じで書かれています。
おそらく、事件の発見者だった少女がその後書いた本「忘れられた祝祭」の一部だったんじゃないかと思うんですが。なんか文芸っぽい感じもあるって言ってたし。
そういうのが挟まれるから、なんていうか…それこそこれは、「忘れられた祝祭」みたいな、本当に実際にあった事件を取り上げた本なんじゃないかと思ってしまいます。作家さんてすごい。
毎回の語り手が最後の方で色々気づいて、実はこれはああだったんですかね、とか、曖昧に思わせぶりなことを言うからそれが気になってどんどん引き込まれていきました。

ひとつのことがらもそれを認識する人の数だけ見方があって事実がある。
誰もが本当のことを言ってるのかもしれないしそうじゃないかもしれない。みんな本当のことを言ってたとしても矛盾はできる。
「忘れられた祝祭」を書いた女性は、ノンフィクションなんて無いと言ってました。そこにもこういう背景があるんじゃないかと思います。

恩田陸さん、まだこれで二、三冊目くらいですが、蜜蜂と遠雷のように白昼夢みたいな感じは一緒でした。もっと色々読んでみたいです。
ちなみにこの本のタイトル、ユージニアについては…友人とユートピアをかけた感じなんですかね。それはそれで面白いネーミングセンスだな…